熊野に満たされる幸福 -熊野市『食堂あお』-

南紀の現場廻りのついで、と言うには相当思い切って、軽箱バンにマニュアルミッションの鞭を打ちながら紀伊半島を横断、
ついに来ました!念願の『食堂あお』。

お若くイケメンの店主、産休中の奥様に代わって、出来る感じの女性スタッフさんのお二人が笑顔でお出迎え。
不要な気難しさは微塵も無しなのでご安心を。

店内はカウンターのみ10席ばかり。
食材も料る技や手順もお客様注視の中で仕事する昔で言うところの板前割烹スタイル。
分厚い一枚板の堂々たるカウンターを中心に据えた店内は落ち着いた雰囲気ながら、モダンでオープン。本物感とカジュアルさがうまくバランスされています。

店主は地元、熊野市のご出身ですが修行の地は愛媛。東京でも大阪でも京都でも無くなぜ愛媛かと言えば、地魚の扱い、活かし方をどっぷり習得したかったからというのがその理由との事。そう言えば全国の名うてのシェフがその魚を挙って求めるカリスマ漁師の藤本純一さんなんかも愛媛今治だったり、松山には地魚料理の名店「澤田」さんなんかもあるから何か関係あるかも(知らんけど)。

それは兎も角、
地元熊野の海のもの、野のもの、山のものを中心に繰り出される料理はどれもこれも素晴らしく、美味い不味いの次元の一つ上を行っている。
居並ぶ素材には、高価な食材もあるが地元熊野産という以外、特に特別な素材が並ぶわけではない。

しかしながらどの料理も個々の素材が歓喜し調和し、今ここにある事を祝福しあっているかのようで、食べる事の幸せに包み込まれる。
少なからず食べ物が本来持つ「嬉しさ」や「喜び」に心や体が共鳴するようにさえ思える。
これだけの料理、もっと都会で営めばさぞ、と邪な思いが浮かぶが、この地に在る事、この地で営む事にこそ意味があり、成立する事なのだろう。
暗く陰惨なニュースが続き、世の暗部に目と心を向き合わせざる得ない日常ではある。
しかし、少し視点を転ずれば、元来、途方もない豊かさや幸せにこの世は溢れ、充分満ち足りるようにこさえられているのではないか?とさえ思えてくる。

きっと熊野に満ちる何か大きなものの御神気や霊力の差配かもしれないが、そんな思いへのトリガーとなる料理達である。
出来うるなら通いたい。
けれど熊野は遠い。
昔はこの辺りでちょこちょこ仕事があって、この界隈もうろつけたのだけど最近はさっぱり。
なんか熊野で仕事探してみよう。

食堂 あお
〒519-4324 三重県熊野市井戸町793