日本の大農業地帯、十勝地方。
生協組合員さんとも馴染みの深い折笠農場は、ほぼその中央に位置し、
約95haという圧巻の規模を誇る大農場です。
「私が開拓者として5代目。曽々祖父と曽祖父が約110年前に福島に
この地に移り、土地を切り開いたのがこの農場のルーツです」
そう話してくれるのは、折笠健さん。
自身の広大な農場と北海道各地の生産者で構成される折笠農場グループとして、主にじゃがいも、玉ねぎを長きにわたって生協に出荷しています。
答えは全部、組合員さんが教えてくれた。
生協との付き合いの中で忘れられない出来事があると言う折笠さん。
「今から30年ほど前になります。当時、主流の『メークイン』を『北海こがね』に切り替えるかどうか、悩んだ時がありまして」
メークインといえば男爵と並ぶジャガイモ界の二枚看板。というより、当時はこれより他にはほとんど市場には出回っていなかったそんな時代。
「ジャガイモの無農薬栽培を試していたんですが、どうもうまくいかない。それをある人に相談したんです」するとその答えは、『メークイン』では厳しい。『北海こがね』なら耐病性も高く食味も良く土地にあっているというもの。果たして試してみると正にその通り。ねっとりした上質の芋が収穫できました。しかし
「当時の大定番『メークイン』と知名度のない『北海こがね』。これを全て切り替えるのはすごく勇気のいることでした」
悩んだ折笠さんは、生協の組合員さんに「メークイン」と「北海こがね」の比較試食を持ち込みます。その結果は「どうして、もっと早くこんなおいしいじゃがいもを出荷しなかったのか」と叱られる始末。折笠さんが、これでいける!と確信。そして同時に品種選定の重要性と選定した品種を消費者に食べてもらって検証することの大切さを実感した瞬間でした。
恩師、木村秋則さんとの邂逅
時を経て、緑肥栽培から特別栽培へ一歩一歩進めていた1998年頃、折笠農園にとって大きな出会いがありました。なんと『奇跡のりんご』で知られる木村秋則さんが農場を訪ねてこられたのです。
その訪問理由は、大豆、小麦の国内生産は北海道、とりわけこの十勝地方に集中。
そして大豆、小麦というのは、みそ、醤油といった我々日本人の食の根幹を構成するものの主原料。つまり十勝の農業が変われば日本の食の核が変わる、と言うもの。
「そして十勝の農業が変わるには、まず、折笠さん、あんた所からだ、あんたが実証して見せれば仲間は自然に広がるって言うんです」
木村さんといえば自然栽培。徹底した自然観察に基づいた合理的で科学的なアプローチが信条。折笠さんもその話に共鳴。折笠農園は、木村理論に則った自然栽培へと傾注していきます。
折笠ファミリー。
左から妹さん、お母さん、弟さん。
開拓者としての矜持
そして今、折笠農場の約25%が自然栽培に。自然の摂理に則って、土地と気候を見極め正しく品種を選び、様々な労力や費用を削減した上で、しっかり良いものができ、消費者に評価されれば
「きっと賛同してくれる仲間が増えていきます。この輪が広がって、他の生産者が作ったものを通じて今まで支えてくれた組合員さんや消費者の皆さんに還元できることになれば、これ以上ない恩返しになると思っているんです」そう健さんは目を輝かせます。
開拓者5代。110年前、原野であったこの地に初めて鍬を入れた折笠さんの先祖の信条はいかなるものでしょう。しかし、その開拓者魂は綿々と現在にも引き継がれ、北海道を、日本を、開拓し続けているようです。