「酒は人なり」ゆるりと旨し酒、岸和田『三輪福』
泉州岸和田、1818年創醸の「井坂酒造場」。お酒の神様でもある奈良・三輪明神より特別に名を冠する事を許された『三輪福』を代表銘柄とする老舗だ。
堂々たる白壁が連なる酒蔵は圧巻で、杉玉が吊るされた販売所を兼ねる玄関土間は掃き浄められていて、老舗の風格がひしひしと漂う。
暖簾を分け入り玄関へ。声をかけると奥から軽やかに声が上がり出迎えて頂けたのは井坂佳嗣さん、10代蔵主。
「どっから来てくれたん?あ、そうそう、あそこにも昔は造り酒屋あったんやけどね。
たたんでもう30年程になるかな」
「それ新酒やけど、もうこの時期までやなぁ。これからはビールが美味しいやろ」
凡そ大店の当代とは思えぬ自然体で、風采の上がらぬ一見の立ち寄り客に屈託なく軽妙に話ながら、漂う気品。
奇を衒う事もなければ、気負い過ぎることも無く、何だか剣道や合気道の達人みたいな雰囲気。
後で調べたところによると、「業務ニ精励シ衆民ノ模範タルベキ者」に授けられるという黄綬褒章を受勲されておられ、私が抱いた印象も然もありなん。
酒瓶が並ぶ販売所にはこれ見よがしなスペックや製法の誇示は何一つ見当たらないが、聞くところによるとここの純米酒は三段ならぬ四段で仕込まれているそうな。
三流はこだわりを語り、
一流は必然を黙して為す。
そういうことかもしれない。
今回は、三輪福の搾りたてと辛口純米を頂いた。
突き抜けた個性は何もなく、素直で真面目で気品があり、万事旨い酒。
例えるならば禅書の円相図が如くの味わいだ。
酒は人なり等とわかったふうな事を言いたくないが、これほど作り手と作られたものの印象が合致し納得できる事も珍しい。
小っ恥ずかしいが「酒は人なり」とやはり言いたい。
井坂酒造場